【C2】叶うなら変わらぬ愛を

観葉少女パロになります。苦手な方は自衛お願いします。
(設定だけをお借りした感じです。ふんわりと楽しんでいただけると幸いです。)
凪砂:人間
茨:観葉少年


「凪砂、これが私のコレクションだ。」

まだ凪砂の自我がない頃、父に連れられて来た大きな倉庫。そこに詰められた煌びやかな装飾や見たことのない物の数々。父はお気に入りの物をひとつずつ凪砂に見せながら楽しそうに話していたことを今でも覚えている。

そんな中、倉庫の電気が当たらないほどに暗く、隅の方で何やら足のようなものが、凪砂の視界に入った。

じっと見つめる凪砂の視線に気づいた父は、「凪砂が気に入ったのであればプレゼントしようかと思ったが、あれはだめだ。見た目はいいが一向に目を覚まさない。ただのガラクタと同じだ。凪砂が気にする必要はない。」もっとお前にふさわしいものをプレゼントしてやろう。
そう言って凪砂の視線を遮断するように、その倉庫を後にした。

凪砂は父がいなくなった後も、あの場所が忘れられなかった。足しか見えていなかったはずなのに、不思議と鮮明な記憶が残っていた。

それからどのくらいの年月が過ぎただろう。凪砂が巴家に保護される日を迎えた。その時、凪砂はどうしてもあの人形を連れていきたいと思った。けれど凪砂は言葉を知らない。人の頼り方も知らない生まれたての子供同然だった。

「……何か気になることでもあるのかね?」

凪砂の顔を覗き込んでくる彼こそが、巴家の次男坊の巴日和だった。じっと見つめる彼の視線があたたかくて太陽みたいに眩しくて。そしてうらやましいと思った。しかし凪砂は彼を見上げるのみで何も伝えられない。
その凪砂の表情が未知への不安と捉えられたのだろうか。凪砂のひんやりとした手を、日和の温かな手で包み込んだ。

「大丈夫だね。これからたくさん教えるし、一緒に楽しいことも悲しいことも全部覚えていこうね!!」

****

巴家で生活するようになってしばらく経ったある日。凪砂と日和は使用人に連れられて、かつて凪砂が生活していた屋敷へと足を運んだ。父が残した物の整理をしたいというのだ。凪砂はこれだと思った。日和に教わって少しずつではあるが言葉を覚えた凪砂は、拙い言葉で、あの倉庫に行きたいといった。父が大切なものを集めていた倉庫たからばこに。

そこは数年たった今でも煌びやかなままだった。凪砂は自分の記憶を頼りに、あの人形を探した。どんなに埃っぽくても光が届かなくても。こんな場所でひとり孤独な時間を過ごしていたあの人形を救い出したいと思った。

そうして見つけた。

「……おまたせ。きみに、あいたかった……」

埃をまとい、力なく座り込む人形が、たまらなく愛おしくて。無意識に人形を抱きしめていた。それが凪砂の宝物になった瞬間だった。

凪砂はその人形を【茨】と名付けた。

後日使用人が茨を調べた結果、茨は観葉少女プランツ・ドールというものだと分かった。茨は男性体だったため、観葉少年が正しいか。主食はミルクで一日三回。肥料として砂糖菓子を週に一度与えると色艶が保てる。持ち主の愛情も重要な栄養で、不足するとミルクを飲まなくなり、徐々に質感などを損ない最後には枯れてしまう。波長が合うものが現れると目を覚ます。

凪砂は真剣にその話を聞いて記憶した。今の話から茨の目が覚めないのは波長の合うものが現れてないからとわかる。そして今の茨の状態がとても悪いことも理解した。詳しい期間はわからないが、茨は長期間愛情を受けておらず、食事もしていないことは確かだ。

茨を引き取ったその日の内にお風呂に入れて全身綺麗にはしたけれど、やはり栄養が足りないせいで、髪や肌もぼろぼろだった。

観葉少女プランツ・ドールの育て方を全く知らない凪砂は、日和の協力を得て、観葉少女プランツ・ドールを育てている人物に教えを乞うた。

まずは栄養が枯渇している茨にシリンジでゆっくりと食事を摂らせることから始めた。いきなり多量の栄養摂取は無理なため、ゆっくり少量ずつ時間と回数を重ねて与えていった。ミルクだけでなく、沢山の愛情を与えることも重要で、これが一番の難関だった。
どうやって愛情を伝えたら良いのだろうか。眠りについている茨へ愛情を伝えるためにはどうしたらよいのか。それは誰にも分らず、常に手探り状態だった。

試行錯誤と定期的なメンテナンスを繰り返していくうちに、徐々に茨の体が修復され、髪にも艶が戻り、数か月後には、とてもきれいな人形に生まれ変わった。これが本当の茨の姿なんだ。と凪砂はキラキラした目を茨に向ける。

茨の療養期間中、日和から学んだ言葉や感情などを茨に教えることが日課になった凪砂はとてもたのしそうだった。話ができなくても目が開かなくても。耳なら聞こえているかもしれない。そう信じ続けて、いつか、茨が目を覚ましてくれた時にたくさんの愛情を与えられるように、沢山の言葉や感情を学んでいった。

「あぁ、早く君とたくさんおはなしがしたい……」

茨の頬を撫でる凪砂の表情は慈愛に満ちていた。

***
Ibara side

暗い暗い闇の中。どのくらいの時が過ぎただろう。そんなのもう気にならなくなった。愛されるはずなんてなかったんだ。他の観葉少女なかまより容姿が優れていて、考える頭があった俺は、早くに買い手が見つかった。

まぁその時も俺の目は開かなかったが。

それでも容姿がいいからとそのまま買い取られた俺は、目を閉じていてもわかるほどに眩しい世界の中にいた。どうやら展示されているのだろう。煩く不快な音ばかりを拾う耳。塞ぎたくなるけれど、両腕は動かない。俺の体なんて眠ったままだから。

そのせいか、一度も食事を与えられたことはない。眠っているから平気だろうと思ったのだろうか。それとも店主の話や書類を読んでいなかった馬鹿な主なのか。俺が知ることはないのだろうけれど。

いつの間にか、俺は真っ暗闇の中にいるようになった。音も光も届かないここは恐らく倉庫かどこかだろう。まぁそうだろうなと思った。観葉少女プランツ・ドールというだけで話題性はあるけれど、どれだけ時間をかけても俺の目は覚めないし、眠った人形を展示しているだけじゃ何の面白味もない。捨てられたんだろう。まぁそれでもいい。どうせ最初から愛されるために生まれてきたわけではないのだろうから。

……じゃあ俺は何のために生まれてきたの?

考えることも面倒くさくなった俺は意識すらも眠りについていた。
そんなある日、今まで感じたことのない感情が、胸の中に生まれた。これは何だ?体の中に残った栄養が足りなさ過ぎて、良いと言われていたはずの思考すら回らなくなっていた。これじゃ本当にただの人形じゃん。けれど、胸の中に生まれた感情は、すぐに消え去ってしまった。もしかしたら、俺の主人となる人が来たのかと、今までぴくりともしなかった瞼が震えたが、それも一瞬のこと。

……ほんの少しだけ期待してしまった。まぁこんな倉庫になんかもう来ないだろうなぁ。

ただでさえ枯渇した栄養を無駄遣いしないためにも、俺は再び深い深い闇の中に戻った。

***

随分前に経験したことのある感情が、再び俺の中に生まれた。あの時と同じ感覚。同じ人がここに来たのかな。あぁ、前と違って頭が回らない。もう、俺の体は枯れる寸前まで迫っている。

その時、俺の耳が何かを拾った。音?言葉?わからない。けれど不思議と不快感はない。もっと聴いていたい。この拙い音。生まれたての音。純粋で何物にも染まっていない音。

あぁ、最期にこの音と感情を感じられたなら、このまま枯れてもいいなとまで思う。

「……おまたせ。きみに、あいたかった……」

頭に直接届いた声。その声はまるで、俺を大切に思っているみたいな……。そんなことはないって分かっているのに、今聴こえた声を信じたいと思ってしまう。これが【愛情】なのだとしたら。それは今の俺にとって最高のプレゼントだった。

あぁ、もう少しだけ、その声の主と一緒に生きていたい。冷たいからだがゆっくりと温かくなってくる。心地いい……。

願わくば、俺の主人になってほしい。そう願ってしまう俺は罪ですか?

to be continued.


ヒント
タイトルや本文作風は普段と近いですか?
→普段のままです。
地の文と会話文どちらに力を入れていますか?
→地の文です。誰にでも読みやすくを目標としています。
あなたにとっての凪茨は?
→月と太陽
作者掲載ページ
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