Eveはおそらく付き合ってます 左右は考えていません。
数年後の時間軸
七種茨という男に物欲はあるのか。それが私のここ数日の悩み。ずっと頭を抱えている。というのも、私たちがいわゆる恋人というものに変化して数年が経過し、プレゼントもいろいろなものを渡していた。パワーストーンと貝殻を交互にならべたブレスレットは言わなかったけど、時々目に入っては柔らかく微笑んでいたとコズプロの社員の報告があってなんだかむずがゆい気持ちになった。問題は、今年の誕生日に渡すプレゼントだ。茨は上等なワインをくれたかと思うと何かの子供向けの玩具をくれることもある。今年は腕時計だった。気になるのは、茨のあの時の表情だった。ずっと、こちらを伺っているような。きっと、私が誕生日プレゼントを喜ぶとかではない、なにかがある。翌日から少しだけ元気がないような、吹っ切れたような複雑な顔を見せるから気が気でなくて、困ってる。
「はーい、七種さんオッケーでーす！」
「じゃあ終わりで！お疲れ様～」
銀杏並木での私たちのソロと集合の写真撮影が無事終わる。日和くんが丸眼鏡をかけて挑んだ写真はきれいなものに仕上がるだろう。それよりも。茨は銀杏並木が似合う。きれいなあの髪と銀杏のコントラストが美しかった。早足で茨が向かってくる。その後ろを日和くんが寒そうについて歩く。ジュンと一緒にのんびりと紅茶を飲む時間もこれで終わりみたい。小道具を変えて今度は茨とジュンの写真撮影らしい。
「だいぶあの子たちも様になってきたね。ジュンくんはぼくの教育の賜物だけどね！」
「そうだね。……うーん……」
「凪砂くん。どうしたんだい？」
怪訝そうな声で日和くんがこちらを見てくる。
「実は茨の誕生日プレゼント、茨のことを眺めてたら何か思いつくかと思ったけど、ひらめかないんだ。あと、腕時計をもらって早速次の日からつけているんだけど、なぜかそれを見るたび茨は不機嫌になったり一瞬顔をしかめたりするのが気になってて。私、なにか問題があったかな」
日和くんはティーカップで暖を取りながらこちらの話を聞いてくれていた。膝にかけられているストールはジュンがあげたものらしい。
「毒蛇もかわいらしくなったものだね。凪砂くん、プレゼントにはこっそり意味を込めることがあるんだよ」
「意味……？どういうことかな」
「わかりやすいものでいえば、指輪とかかな」
「あぁ。なるほど。そんなものがあるんだね」
携帯で『プレゼント 意味』と検索をかける。
「でもプレゼントは茨のことを考えていると決まるものだね」
「ありがとう。日和くん」
そういえばね、と日和くんが別の話を始める。思えば、ジュンとの話が増えたようなきがするな。感性も大衆のことを理解したような口ぶりが多くてジュンとの生活で日和くんも変化していることを実感する。
その時、秋風が強く吹いた。茨の髪がぶわりとあがる。茨の首筋が見える。白くて、美しい。性交の時にだけ見えるのが、今見えてしまった。
「あ」
「何か思いついた？」
「うん。日和くんのアドバイスが参考になったよ。ありがとう」
「そう。それなら何よりだね！」
茨の誕生日当日。バースデーイベントもつつがなく終わり、コズプロの社員やアイドルに囲まれて誕生日プレゼントを抱えきれないほど渡されている。毎年、この瞬間だけが慣れないらしい。日和くんやジュンもこっそりイベント用とは違う物を渡したらしい。茨の周りには、渡し終わった人達が次々と言葉を述べては去っていく。でも、なかなか終わらない。茨の今までの行動が、こうして信頼を結んでいるのは分かっているのに、なんだか複雑な気持ちになる。日和くん曰く、これは｢嫉妬｣という感情らしい。茨といると色々な感情を覚える。日和くんは新しいことを沢山教えてくれたけど、茨は私の心がかき乱される事をその身を以て教えてくれた。茨も元気にお礼を返しているのをみると微笑ましくなる。そうしているうちに人ははけていく。私と茨だけになるのは窓の外もすっかり暗くなった時だった。
｢茨、私からも誕生日プレゼントあげるね｣
｢閣下……ありがとうございます。開けてみても？｣
ゆっくり頷くと茨は髪の色と同じリボンを解いていく。縦長の箱の蓋を開ける。
｢ネックレス、ですか｣
｢うん。つけたいから、貸してほしいな｣
怪訝そうな顔をしながら箱を渡してくる。
ネックレスを通してある2つのリングのうち、ひとつを取り出しておく。
｢茨、つけるから後ろ向いて欲しい。あと、髪あげて｣
即ち急所を晒せ、と命じているようなものだけれど、素直に従ってくれるようになったのは信頼からなのかな。
晒された首元に銀色を通し、最後に唇を寄せる。
｢閣下！！な、何するんです……跡、残さないでください｣
｢跡は残してないよ。綺麗だったから、キスしただけ｣
狼狽えている茨の右手を掬う。右手の薬指にキスをしてからとっておいたリングを通す。
｢これは……？｣
｢今日の夜、寝るまではつけておいて。本当はずっとつけておいて欲しいけど、私たちはアイドルだから。……これ、私とお揃い。マリッジリングの方は一緒に選んで欲しい｣
そういうと分かりやすく頬を染める。
｢ねぇ、茨。一つだけおねだりしていい？｣
｢はぁ……。構いませんが。自分に叶えられる範囲でしたら｣
｢私の半生を茨にあげるから、茨の半生も私にちょうだい｣
｢……ケツが痒くなりますな｣
｢ダメかな……｣
｢はぁ。だれもダメとは言ってませんが｣
｢……ありがとう。ところで茨、プレゼントには意味があるんだって？時計、ありがとう｣
｢もしかして、ネックレスも｣
｢うん。ちゃんと意味を調べたよ。それに、リングはどこに着用してもいいんだって｣
茨が困ったような、照れたような顔を見せたあと、今日は暖かいですね、なんて窓を開ける。風に吹かれて茨の髪が靡く。
ビルの照明に照らされた項と銀の輝きが美しかった。
