R18茨♂が女性物の下着を凪砂に着せられる(仕事の日に)
こちらの閣下は恋人の厭そうな顔を見て興奮する嗜好をお持ちです。
午前中に仕事がある場合、その前日はセックスをしないというルールがある。情けないことこの上ないが、主に俺の体調の為だ。何分閣下は大変雄々しくていらっしゃる。翌日使い物にならない自分にイラつくのも馬鹿馬鹿しいし、何よりあちこちに不利益が生じることが我慢ならない。閣下もそこは流石に理解してくれたので、まぁそういうことにしてある。
明日も午前中から、デスクワークだが仕事があるのでご遠慮願いたいと言うと、閣下はいつも通りの涼しい顔で肯いた。明後日は俺が午後からだからさすがに明日の夜は覚悟が必要だろうが、これでとりあえず今夜の安眠は約束された。……はずだった。
「……じゃあ、明日は楽しいことをしようか」
渡された紙袋を覗き込んで絶句する。まさかと思いながら広げると、予想以上の最悪が用意されていた。
「閣下、これは」
「……ふふ。ちゃんと『して』ね」
愉しげに目を細めて、念を押された。そう言うのであればやるしかない。閣下の機嫌とパフォーマンスが俺の自尊心で贖えるなら、それは即ちタダと同義。自分の理性に言い聞かせて紙袋を納め、努めて平坦な発音を意識する。
「閣下の仰せのままに」
嗚呼、目眩がしそうだ。
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茨に可愛い下着をプレゼントしてみた。女の子が穿くような総レースの黒い小さなショーツと、おそろいのレースとリボンだけでできているブラジャー。胸に当てる平たく小さな三角にはスリットがあって、茨の可愛い乳首が露出できるようになっている。構造を理解した茨は一瞬とても厭そうな顔をして、それから耳を赤くして俯いた。
「……ふふ。ちゃんと『して』ね」
赤くなったり青くなったりと忙しい茨に念を押すと、はいと返事をしたけれど声にいつもの元気がない。それどころじゃないんだろう。茨の形のいい頭の中では、きっとこの下着をつけた茨が私に犯されている。茨の想像する私は、茨をどんなふうに抱くんだろう。それが判れば、それ以上をあげられるのに。他人の考えていることを知る力があればよかったけれど、神ならぬ身ではそういうわけにもいかない。それならそれで別の楽しみ方をするまでだ。
落ち着かない様子の茨を抱きしめて眠った筈なのに、起きたら茨はもうすっかり身支度を整えてしまっていた。いつも通りスキの少ない着こなし。その下に、きっとあの下着をつけている。
「……茨、下着は?」
朝の準備をてきぱきとこなす茨に問いかけると、茨はつんとした目と押し殺した声で「きちんとつけていますので、ご心配には及びません」と言った。嘘はついていないだろう。こんなつまらないことでごまかしをするメリットがないことを、茨はちゃんと理解している。
「……見たいな」
「はい?」
眉をひそめる茨に笑いかける。
「……見せて」
茨はやっぱり厭そうな顔をした。茨の厭そうな顔、可愛いから好きだ。可愛い顔がもっと見たくて『おねだり』をすると、茨はぐっと唇を噛んだ。
シャツのボタンを外す指を注視する。二つ、三つとボタンを外し、茨はぐっと襟を開いてみせた。肩に走る華奢な黒いライン。
「……ほら、言ったでしょう。ご満足いただけましたら、閣下もお支度を――」
「下は?」
さっさとボタンを填めようとする茨を制して視線を下げる。知らん顔で締めたベルトの、その下を暴きたい。
茨が腕時計に視線を向ける。私もつられて壁の時計を見上げた。七時二十分。今日の午前中、茨は事務所で滞っていた事務仕事をきれいにすると言っていた。私の方は昼からだから、もう少しゆっくりしていられる。つまり朝が滞って困るのは茨だけだ。そういう日を選んで話を持ちかけたことに茨は気づいているだろうか。知った上で受け容れてくれていたらいいのにと思うのは我が侭だろうか。茨は二秒ほど視線をさまよわせてから、大げさにため息を吐いた。ベルトをゆるめ、フロントをくつろげて、スラックスを腿なかばまでさげる。ぞんざいに捲くられたカッターシャツの下で、弛緩した肉がレースにおさまっているのが透けて見えた。
「ここまでですからね」
そう言った声が右から左に抜けていく。私が何も言わないでいると、茨は居心地悪そうに服を直して、中断していた支度を再開した。
茨のそういうところが、とても好ましいと思う。
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要領を得ない報告だか提案だかを話半分に聞き流しながら欠伸を噛み殺す。主導権と裁量権のない会議でこれをやられると、生産性のなさにイラ立ちばかりが募っていくから始末におえない。既知の情報ばかりが提出される会議の只中で、集中を切らした意識の隙間に余計なものが入り込んでくる。
尻のすわりが悪い。勿論、閣下に押しつけられたあの破廉恥な下着をつけているせいだ。せっかく閣下がお目覚めになるより早く起きて身支度をしたというのに、朝からストリップまがいのことをさせられたのも信用されていないようで腹が立つ。やると言ったからにはやる。それがどんなに理不尽でも不愉快でも、便所に立つたびに潜入訓練ばりの注意力と緊張感を要求されようとも、閣下がやれと言うなら俺に否やはないのだ。
「――本件について、なにかご不明な点やご質問がある方?」
「では自分から、いくつか確認させていただきたい。よろしいですね?」
にこやかな顔を造って挙手。プレゼンターが顔をひきつらせる。如何に無益な会議であろうとも、つつける箇所があるならつついておくに限る。さて、どこまでいじめてやろうか。せっかくなのでたっぷりやつあたりにつきあってもらうとしよう。
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……そのくだりを聞かされて抱いた感想は、とてもシンプルだった。
「……かわいそうに。気に入らないからといって、他者を不必要に甚振るのはよくないよ。みな茨のように賢くはないのだから」
本当に、心底からそのスタッフを気の毒に思う。茨のやつあたりは、本人にその気があって、かつ仕事が絡むと驚くほどいやらしい。『蛇のように陰湿』という慣用的な比喩があるが、それはきっとこういうことなのだろうと納得してしまうほどだ。出会ってすぐの頃に日和くんが茨を『毒蛇』と呼んだのは、なるほど慧眼だったのかもしれない。
「……ねえ、茨。聞いてる?」
「は、はい……、申し訳、っくぅ……」
快感を殺しきれずに反った喉にキスする。茨はそれだけでぞくぞくと身体が震わせた。埋め込んだ指でなかを探ると、感じ入った声がもっとと啼く。朝は行儀よくおさまっていた肉はかたく張り詰めて、レースを押しのけて欲の形を曝していた。
「……それで、その後は? 」
報告を促しても、茨の口から吐き出されるのは意味をなさない母音ばかりだ。そうさせているのは私だけれど、それはそれでこれはこれ。内側をいじくる指を止めると、茨はふうふうと息をつきながら早口に言葉を継いだ。
「そのあと、は、少し休んでボイトレして、んっ、……あとはえ、Edenのレッスンでおしまい……です」
快感の余韻、それと急いているからだろう、舌が縺れているのが可愛い。可愛いから、それまで避けていたイイところを探り当てて、優しく刺激してあげる。
「や、あっそこだめ、だめですっ」
「……うん、いいよ」
茨は口も身体も能弁で、しかも言うことが真逆なのが面白い。私が恣意的に解釈している部分も大いにあるけれど、結果的に茨が快楽を得ているならいいんじゃないだろうか。今も茨は私の手が導くままに昂り、髪を振り乱して溺れている。
やがて茨はか細い悲鳴のような声を上げて絶頂して、ベッドに沈み込んで弛緩した。汗で濡れた身体には、これだけは脱がさなかった黒いレースがまとわりついている。上気した肌に繊細な黒が映えて、淫靡だった。
「……可愛い」
思わずそうこぼすと、茨はむずかるように首を振った。しなやかな腕が蛇のようにシーツを這って、私の股ぐらをまさぐる。滾った熱を探り当てて、茨は口の端をつりあげた。
「閣下もこれ、お辛いのでは……? 自分の方はもう充分ですので、あとはもう、閣下のお気の済むまで使ってください……♡」
穴の縁に指をひっかけて拡げながら茨が誘う。誘われるままに切っ先を宛てがい、仕上がったそこに押し入った。肉の感触と熱が齎す快楽に促されて腰を振る。茨のイイところを引っかけるように腰を使うと、押し殺した嬌声が上がった。覆いかぶさって、血が上った耳を食む。
「……茨も、気持ちよくなってね」
鼓膜に直接吹き込むように声を送ると、組み敷いた身体がびくんと大きく震えた。茨は耳が弱い。訓練次第で、もしかしたら私の声だけで絶頂できるようになるのだろうか。そうなればいいのに。……そうなって、ほしい。
茨が絶頂の声を上げる。少し遅れて私も茨の中で逐情した。そういえばスキンを着けていなかったことに、吐き出してから思い至る。視覚情報の厭らしさですっかり置き去りにしていたらしい。参ったな……
「……茨、」
正体をなくしている茨から性器を抜くと、私の形に空いたそこからローションと混ざったものが漏れ出てきて黒いレースを汚した。ほとんど脱ぎ出てしまっている茨の性器も、自らが吐き出したものに塗れている。それがたまらなく厭らしくて、癖になりそうな予感がした。