【R18_2】そだつ恋

R18


 そっと手を握る。
 移動中のバスで、隣に座る茨の手の温度が交わっていった。
 それだけで幸せになる、凪砂は小さく息を吐いた。
 ずっと隠していた想いを茨に伝えた。茨は応えてくれた。でも茨は恋がわからないという。恋をしたことがないらしい。
 凪砂も恋をしたことはない、だからこれが初恋だった。書籍に記されていた心の動きと比較してみるに、凪砂は、自分は茨に恋をしている、そう確信していた。
 間違いではない、恋。
 茨のことを考えるととろけていってしまいそうになる。茨をもっと幸せにしてあげたいと願う。茨の傍にいたいと羨望する。
 凪砂は握った茨のてのひらをゆっくり指先でなぞってみせた。それが心地よかった。そうすると茨の手は少し強張って、でもそれを許すように弛緩する。
 恋を教えたかった。
 恋してほしかった。
 茨の匂いを嗅いで、そっと息を吐いた。

 ***

「先方の資料を用意しました。今回はこのようなコンセプトの元――」
 ソファに座って茨がタブレットで説明をしてくれている。それを隣に座って覗きながら聞いていた。
 茨の熱が近くて気持ちいい。
 そっと横を覗くと、茨の薔薇色の睫毛が揺れていた。
 いい匂い。
 くちびる。
「それで――、閣下? んっ!?」
 顔を寄せて、くちを上げさせて、気がついたらキスをしていた。
 茨のくちびるは柔らかく、男の弾力で、つやつやしている。ああ、キスってこんな感じなんだなあ、とぼんやり思う。
 くちを離して、今、キスをしたことを自覚する。しまった、と喉が渇いた。
「ごめんね、……嫌だった?」
「……いえ……」
 茨は平静を装っていたが、瞳が揺れているのに気が付いてしまった。
「か、閣下が、こういうこと、したいとは、思っていなくて……」
 性的な接触は茨は好きではないみたいだった。悪いことをした。――でも。
「私、もっと、これ以上も望んでいるよ」
 大人しいウサギだとおもっているのだろうか。
 ウサギは発情するけものなのに。
「でも、茨が嫌ならしないから、安心して」
 茨は何かを誤魔化すみたいに髪を耳に括って、タブレットを操作した。
「驚いただけです、大丈夫です、……準備はしておきますから。それでは先ほどの続き、なのですが――」
 何事もなかったかのようにふるまうけれど、耳が赤くなっている。茨も照れたりするんだな、と初めての茨を観測して、少しだけ嬉しくなった。

 ***

 キスしてしまって一ヶ月は立った。
 本当はもっと雰囲気がある中で初めてのキスをしたかったな、とぼんやり思う。最低限のふれあいだけしかできなかった。少しだけ怖いのかもしれない、茨のまだ育っていない恋を壊してしまいそうで。
 茨のマンションに入ると、机の上にfor Nagisaと書かれたラベルと、綺麗な瓶が三本置いてあった。ファンからのプレゼントだろうか。茨の部屋にあるのだから検閲を通ったもので、つまりは安全なものだ。丁度喉が渇いていたし、飲んでもいいだろう。蓋を開けると好い香りがした。香水みたいだった。飲み込むと粘度が高く、とろとろと喉をつたっていった。
 おいしい。茨にも残しておこう。あと少しで茨も帰ってくるし、それまで読書をしていよう――、と、思っていたら。
「……?」
 なんだろう、体が熱い。腹の奥が疼いた。甘い衝動が湧き上がってくる。この感覚は覚えがある、自慰をするときの、僅かな苛立ちと渇望。淫らな茨を妄想して、それで慰める時の、欲望。
「閣下、お待たせいたしました」
 茨が部屋に入ってきた。
「……閣下? どうされましたか?」
 そう云って私の顔を覗き込む。
 その匂いに我慢ができなくなる。
「い、ばら」
 手を引っ張って、ソファに倒して馬乗りになる。
「んっ……!」
 くちびるをうばう。たべる。衝動が抑えられない。もっと食いちぎりたい。壊してしまいたかった。無理やり服を剥いで、裸の柔肌に歯を立てて、秘部を暴いて、それから――。
「は、あっ……かっ、か……っ」
「っ……」
 下を覗くと、潤んだ海色が揺れていた。
 壊してしまったらどうしよう。
 茨の恋を壊してしまったら。
「ごめん、茨、にげて、私、酷いこと、しようとしてる、……」
 欲しい、もっと噛み付いて、もっと揉みしだいて、誰にも許していないはじめてを奪う。欲望で穿って、衝動を注ぎたい。
 暴力。
 息が上がる私の下で、茨は逃げずに、静かに云った。
「いいですよ、……ひどいこと、して……、閣下の望みなら、いい、です」
 その顔がいけなかった。
 張り詰めた顔が、ほんの僅かに、慈愛に満ちた。
「いばら、」
「ん、ふ、……っ」
 止まらない、止められない、粘膜の触れ合いを激しく啜って、茨の衣服を剥いでいった。暑い。自分の服も脱ぎ捨てて、二人で生まれたままになる。くちを塞いだまま、昂りを擦り付けた。唾液が溢れる、それは甘露に似た、蜜の味がした。
「は、いばら、ふ、ごめんね、」
「あ、あっ、かっ、か……」
 二本のけものを掴んで扱く。きもちいい。敏感な裏筋やカリ首が触れ合って、そこから快楽が生まれていた。腰が揺れる、止められなかった、にゅくにゅくと先走りで濡れて、その感覚がなによりも現実を教える。
 触れ合う熱に浮かされて、どこまでも抑えきれない欲望が溢れた。達する。茨の体と一緒に。今、いやらしいことを、している。
「は、イく、茨、……っ」
「かっ、か、……っ、……う、……っ」
 どくどくと生温かい欲望がてのひらを濡らした。二人して射精した。はっはっと息を吐いて、射精後の冷静に包まれる。
 性的な接触。茨は――、嫌だったろうか。もっと時間が必要だった。もっとくちづけを重ねて、抱き合って眠って、それから。なのに、――こんなに性急に、してしまった。
「ごめんね、ごめんね、茨……」
 悪人の茨には似合わない、濡らした瞳がそこにあった。美しかった。そうして茨は多弁なくちを黙らせて、言葉の代わりにそっとキスをしてみせる。
「茨……?」
「きて、……かっか……、」
 そんな顔、見たことがなかった。
「ん、あ、……っ」
 自制が効かない。許したくちを貪って、望んだ虚うろに触れた。誰にも許してない処女が、ひくりと呼吸する。濡らすものを探して、置いてある瓶は粘度が高いものだと思い出す。それをとって、手を濡らした。
「あ、ふ、……っ、ん……っ」
「痛い? 大丈夫?」
 そう顔を覗くと茨はこくこくと首を振ってきゅっと縋る手を強くした。かわいい。くちゅくちゅといやらしさは鳴って、解されていく。
「ん、あ、あっ! あ、かっか、ぁ……っ!」
 指を深く差し入れてナカを触っていくと、こりこりする一点で茨のこえが色めいた。おとこのナカで良くなるところがあると知っていたが、きっとここが前立腺というところなのだろう。
「あ、なに、あ、あっ! ひ、あ、……っくぅ、ん、あ……っ」
「茨、いばら、……、かわいい、きもちいいの? は、わたし、もう、……っ」
 抑制が効かない。ずるりと指を引き抜いて、足を抱えた。興奮した屹立は熱を帯びて、その先をねだっている。
「茨、いい? ごめんね、いばら、……っ」
「あ、あっ! あ、あぐ、あ、ひ、あ……っ!」
 ぐじゅり、と押入った。キツい締め付けのナカはふかふかして、それが絡みついてくる。少しずつ揺らして、深く穿つ。きもちいい。揺らして、とけあって、茨の表情かおはみたことない熱を帯びた色をしていた。
「ん、ん、あ、ひ、……っ、かっ、か、……っ、あ、あっ、あっ! や、そこ、あ、……っ!」
 ごりゅごりゅとさっき確かめた前立腺を擦るたびに、茨の顔はもっととろけていった。かわいくてしかたがなかった、もっとどうにかしてしまいたくなる。重点的に甘い部位を穿って、甘く鳴く茨のその表情を、具つぶさに確かめては熱を上げた。
「あ、あっ、あ、や、あ、だ、め、……っ! ひ、あ、かっか、やだ、や、……っ! あ、なに、あ、やだ、あ、あ、っ、あ……っ! あ、あっあ、あッ――!」
 茨が甘く叫んで、びくびくと体を震わせた。きゅうきゅう肉を締め付けられて、搾り取られそうになる。達したのか。それに押し流されるように、絶頂感がたかまる。
「く、イく、……っ」
 性器を引き抜いて、茨の腹に射精する。どろどろと白濁が茨の臍に溜まって、小さな海にした。
 はあはあと二人で荒い息を吐いていた。そうして冷静がこの状況を彫り上げる。
 セックスしてしまった。初めてのセックス。本当はもっと、段階を踏んでするべきなのに。雰囲気とか、優しくとか、そういったことが必要だったのに。
「……ごめんね、茨」
 濡れた海色を拭ってあげる。まだ茨は揺蕩った表情をしていた。
「……閣下、いや、でしたか?」
「ううん、そんな……だって、私が茨を……」
「そうしたのは、俺、です」
「え?」
 茨はそっと机の瓶を手に取って見せる。
「これ、俺からのプレゼント……です」
「そう、なの? だって、これ催淫剤かなにかでしょう?」
「……そうです」
「……どうして?」
 茨はばつがわるそうに顔を逸らして、ぽそりとつぶやいてみせた。
「セックスしたら、なにか、解るかなって……」
「なにか?」
「恋に、関して……」
 茨が恋を考えていてくれた。
 私との関係について。恋がわからないと云っていた、だから興味がないものだと思っていた。
「……なにか、わかった?」
「……からだ、あついです……」
「うん」
「これが、恋なら、苦しくて……、逃げだしたくなります、ここから」
「そっか」
「でも」
 茨は私を捉えて、目を瞬いた。
「でも……また、したいです……」
 茨の気持ちだった。愛の交歓を望んでくれる。
 それが嬉しくて、私はわらってしまった。
「ねえ、ベッドにいって、もう一度、していい?」
「え、まだ、効いてるんですか? 催淫剤……」
「ふふ、とっくに切れてるよ」
「わ」
 抱き上げて運ぶ。運んでベッドに落とした。そうして抱きしめて、キスをする。
「ゆっくり、茨を感じたい。いい、かな?」
「……準備は、しましたから」
 育っていく。二人の恋が、今、大きく。

(了)


ヒント
タイトルや本文作風は普段と近いですか?
→普段と変えました
地の文と会話文どちらに力を入れていますか?
→喘ぎ声……
あなたにとっての凪茨は?
→実は茨の方が性欲が強い
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