R18催眠洗脳
・催眠洗脳
・♡喘ぎ
・濁点喘ぎ
『あ”♡ まって♡ かっ、かぁ……♡♡ イった、イったからぁ、あ”あ”っ♡♡ も、やめ、て♡♡ ん”、ぁ……♡♡』
閣下の掲げるスマートフォンで流れる動画にて、ガツガツと身体を揺さぶられてみっともなく喘いでいるのは俺自分だった。でも知らない。こんな記憶などどこにもなかった。
出会い頭に衝撃的なものを見せられて脳内のキャパシティが限界を超えた俺は羞恥によりフルフルと震える。力が抜ける感覚に陥り、手に持っていた荷物をぼとりと落とすと、ゴトンと鞄の中に入っているであろうパソコンから鈍い音を立てた。
壊れてしまったかもしれない。だがそんなことを今は考える暇などない。それほどまでに閣下のスマートフォンから流れる卑猥な動画が強烈だった。
だって映っているのは自分だし、こんなはしたない姿を閣下の前で晒したなんて、信じたくない。
「か……っか、これ、は…………」
「……ん、証拠の動画」
証拠。……なんの?
閣下はいつものようにふわりと笑っているだけで何を考えているのかさっぱり分からなかった。以前ならもう少しこの『最終兵器』さまの思考を読み取れたはずなのに、ここ最近はてんでダメだった。
それは俺の理解が乏しいせいか、はたまた社会へと飛び出して見聞を広げた閣下が既に俺の手に負えないほどにまで成長してしまったせいか。どちらにせよ、今の状況は俺の思考を大きく卓越する……つまりは手に負えないものである。
……不幸中の幸いとすればここにいるのが閣下と俺だけで、今いるところは仕事の効率をよくするために最近Adamの名義で借りているワンルームであるということくらい。この画像を外で見せられていたら、おそらくESの屋上から飛び降りていただろう。
『───っ♡♡ かっか、かっかぁ……♡♡ も、むり、たすけ…………っ♡』
『……本当に? やめちゃっていいの?』
不意にこの動画を撮っていたであろう閣下の声がスマートフォンの中から聞こえる。先ほどまで手ブレするほど激しく律動していた彼はピタリとその動きを止めた。
どうやら閣下自身でこの動画を撮っていたようで、横から閣下の武骨な手が伸びてきて俺のまろい頭を優しく撫でつける。
『ひ、ぁ♡』
『……生殺しでツラいのは茨だよ。こんなにもはしたなく腰を揺らして……期待してるのに。……ほら、ちゃんとおねだりの仕方は教えたでしょ?』
『あ”、ぅ……』
『…………言って、茨』
欲に塗れた閣下の雄の声に、画面越しの俺は口の端から飲み込みきれなかった唾液をこぼしトロンと顔を蕩かせる。同時に現実世界の俺自身もぞわりと背筋に甘い痺れが走った。あらぬところがキュゥ♡ と切なくなりドッと脂汗が滲み出る。
しばらく閣下の言われたことを噛み砕く時間が空き、やがて画面の中の俺はゆらゆらと涙に濡れる海色の瞳をゆらめかせて次第にその瞳に欲望の光を灯した。
『……ほ、しぃ…………かっかの、おちんちん……せーし、ほしい……♡』
『……もう挿入れてるよ?』
『ちが……っ、いちばん、おく……ぅ♡ かっかせんよーの♡♡ しきゅー、にっ、ください♡♡♡♡』
次の瞬間。
『……良い子』
『────っ! か、ひゅ……♡♡』
グポン♡ とおおよそヒトの身体から鳴るべきではない音が鳴り、画面の中の俺は声にならない嬌声をあげながら海老反りに身体をしならせる。
ガクガクと痙攣するように身体をはねあげさせているのはきっとナカで達しているせい。その証拠に動画に映った下半身からはトロリとした精液が溢れているものの、射精をした気配はなかった。
「……可愛いでしょ。茨、もうナカでイけるんだよ」
ここまできてようやく閣下が嬉々として報告してくる。いや、報告されても困るんだけど。
「待ってください。なんですかこれ……嘘、ですよね……? 冗談もほどほどに──」
「……嘘? ちがうよ。……ほら、だからこれが『証拠』」
閣下はそう言って茨に更にスマートフォンを近づける。ぐちゃぐちゃと聞こえる水音と女のように甲高い嬌声をあげる俺の声が耳につんざくように聞こえる。流れ続ける動画はもはや説明などしがたく、深く絡み合っていて蕩ける俺のあられもない姿が映されるだけ。再度律動が始まったのか、手ブレが酷くなっていた。
流石にここまで来ると頭痛がしてくる。ふらりと身体が倒れかけた時、閣下が慌てて手を伸ばして倒れかける俺を抱きかかえる。
「……大丈夫?」
「…………まず、それ、止めてください」
一生耳に残りそうな声が聞こえるスマートフォンを指差す。閣下はすぐに動画のことだと気がついたようで画面をタップして一時停止した。ようやくこの部屋に無音という静かな空気が流れるが、やはり一度聞いた自分の喘ぎ声は耳にこびりついて離れてくれない。
そのまま誘われるようにスプリングの利いたベッドに腰掛けさせられる。柔らかく心地いいベッド。……そう言えばさっきの動画はこのベッドの上で撮られたものだったよな……などと思ってしまえばそこに一瞬にして居心地が悪いものになった。
「……一応確認しますけど、あれに映っていたのは自分と閣下……で、間違いはないですか?」
「……うん、間違いないよ」
「自分の認識では、自分と閣下はビジネスパートナーという関係だったはずなのですが」
乱凪砂と七種茨はビジネスパートナーとして協力し合う仲のはずだ。それは高校の頃に俺が最終兵器として閣下を見つけたあの頃から何ひとつとして変わらない事実。そんな男同士の俺と閣下が身体を重ねるなんて吐き気がする。
それなのに動画ではまるで恋人同士のように身体を重ねていた。しかも俺自身がみっともなく閣下にその先の行為を強請って、あまつさえ淫言まで使っていた。
ただ、一番の謎はそれを俺自身が覚えていないと言うこと。あんな強烈なことをされていれば嫌でも覚えているはずではないだろうか。それなのに記憶をどれだけ呼び起こしても動画と一致する記憶は存在しなかった。
しかし困惑や動揺を隠しきれない俺を見やり、閣下は何故か納得したように大きく頷く。
「……うん、君の反応はもっともだと思う。だって催眠状態に掛かっている時の記憶は、何も覚えていないだろうからね」
「────催、眠?」
そして閣下は唐突にベッドから降りると部屋の端にあるチェストに近づき、一番上の鍵がついた棚に手を掛ける。ずっと鍵がかかっていて何が入っているのか俺でも把握していなかった、その鍵はどうやら閣下が所持していたようで、カチャンと軽い開錠音が部屋に響いた。
中から出てきたのは二股に分かれたY字状の金属──音叉と呼ばれるもの。まさか開かずの棚からそのような奇妙なものが出てくるとは思いもよらなかった。閣下は音叉を手にベッドへと戻ってきたが、身の危険を感じて思わず距離をとる。
「それで、自分に催眠を?」
「……うん。ずっと君と愛し合いたくて催眠を掛けさせてもらっていたんだ」
「…………いつから」
「……えっと、この部屋を借りた頃からだから、二ヶ月前かな。……ここで茨と泊まる時には必ず、催眠を掛けさせてもらっていたよ」
この男は何を言っているのだろう。本当に日本語を使っているのだろか?
催眠ってなんだ。愛し合いたいってなんだ。しかも俺自身が知らないって相当マズいものじゃないか。
「冗談が過ぎます。自分への嫌がらせですか? 何かご不満なことでもおありで?」
「……不満なことはない。ただ、そろそろ素の茨と愛し合いたいなって思って」
「いい加減にしろよ……‼」
許容範囲を超える現実に思わず腹の底から拒絶反応を示す。
「さっきから何をわけ分かんないこと言ってるんですか⁉ 自分と愛し合いたい? はっ、笑止千万‼ 催眠だかなんだか知りませんけど、そんなもの自分は一切信じませんので‼」
「……そう言うと思ったから証拠の動画を見せたんだけど」
「あんなもの、証拠でもなんでもない……っ!」
必死に首を左右に振って否定を続ける。そうでもしないと自分を保てる自身がなかった。
理解しがたい話を続けていた閣下はようやく口を噤んでくれたが、その目はジッと俺を見据えている。太陽のように燃える橙が俺の身体を焼き尽くそうとしていた。ジリジリとひりつくような感覚が身体を蝕んでいく。……おかしいじゃないか。俺はこの男と恋人でもなんでもない、単なる仕事仲間としての関係でしかないはずなのに。それなのに、どうしてか先ほどからえも言えぬ感覚がまとわりついてくる。
逃げるべきか。いいや、逃げたら閣下の話を肯定することになってしまう。でも一刻も早くこの場から立ち去りたい……。グルグルとそんなことを考えていると、突然閣下が俺の手を掴んで引き寄せた。咄嗟の出来事に反応出来ずに閣下の胸板に雪崩れ込むと、今度は流れるようにベッドへと押し倒される。
「や、離せ、離せ……っ!」
「……また催眠を掛けてもいいかもしれないけど、そろそろ身体も覚えてくれていると思うから大丈夫かな」
「知らないっ! やめろ……嫌だ、離せっ‼」
必死に振りほどこうにも閣下は全体重を使って俺を拘束しているし、俺自身も相手が閣下なだけあって頭のどこかで傷つけるべきではないとストッパーがかかり、暴力での抵抗が出来ずにいた。そのため閣下はするすると俺の服を乱していき、開けっぴろげになった胸元へと唇を寄せる。そして膨らみも何もない胸へと舌を滑らせてきた。
気持ち悪い。身体が硬直する。こんな強姦まがいなことをユニットの相手に、ましてや自分が手掛ける『最終兵器』にされているだなんて気持ちが悪い。
────はず、なのに。
「は、ぅ……♡ んぁ、や……♡」
「……すごい。催眠を掛けていないのに、ちゃんと快楽を拾っているんだね」
「ちが……っ! きもちよくなんて……ひ、ぁ♡♡」
胸の尖りを舌先で押しつぶされると尾骶骨からゾクゾク♡ と電気のような痺れが走る。口からは出したくもない声が漏れるし、先ほどから下半身が張り詰めていて苦しい。
なんで? どうして? やっぱり閣下に催眠を掛けられていたことは本当で、あの動画も本物だった?
何もわからない。分からないのに身体は順応していて、閣下の指や舌が身体をなぞるだけでビクビクと身体が跳ねあがった。自分の身体に起こっている出来事への恐怖と勝手に拾い上げる快感に自然と涙があふれる。
「ゃ、だ……かっか……おねがい、やめ、て……っ」
「……あぁ。茨、泣かないで。私は君に恐怖を覚えてほしいんじゃなくて、一緒にこの多幸感を味わってほしいんだ」
「かん、じない……っ! なにもかんじない、からぁ!」
「……大丈夫。賢い茨ならちゃんと覚えているよ。ほら、私の声をよく聞いて──」
閣下が耳元に唇を寄せ、その低く甘いテノール声を直接脳内に吹き込んできた。
「……茨、心を開いて。私に身を委ねて」
「あ”……♡♡」
「……茨はきもちいことが好きだよね。いっぱい触られて、たくさん気持ちよくなっちゃう。……ほら、もうきもちいことしか考えられない」
まるで猛毒を流し込まれているかのように一気に身体が熱くなる。ぞわぞわした感覚が身体全体に広がり、オレが覚えていないだけで閣下の声に細胞が歓喜していた。この先に待ち構える意識も飛ぶような快楽を今か今かと待ち侘びていて、ギリギリのところで保っていた涙腺はついに決壊した。
「やだ、あ”あ”あ”……っ♡ なんか、へんに……なりゅ♡♡」
「……ふふ、変じゃないよ。とっても可愛い。かわいいよ、茨……」
身体を滑っていた指が徐々に下半身へと降りていく。気がついた時にはズボンも下着も全て脱ぎ去られていた後で、ダラダラと欲望を溢す愚息を閣下に晒す羽目となった。ハッと我に返って足を閉じようとしたが、それよりも早く閣下が足の間に身体を割り込ませてグイっと太ももを押し上げてくる。
いつの間にか用意していた開封済みのローションを手慣れた様子で自身の片手に零れるほど垂らした閣下は、なんの躊躇いなく俺のケツの穴に中指と人差し指を突き立てた。
「ひ、ぎ……っ⁉」
「……さっきの動画を撮ったのは十日前だからどうかと思ったけど、柔らかいままで良かった」
「なに♡ なん、でぇ……っあ” ♡♡ かっか、ゆび、や、ぁう”、ああああぁぁ♡♡」
わざとかと思うほどぐじゅぐじゅとローションの粘質な音を奏でながら閣下の武骨な指が胎内を蠢く。誰にも触れられたことのない──なんなら俺自身だって絶対に弄らないところを蹂躙されているはずなのに、身体は順調に快楽を拾っていた。ごりゅ♡ と硬いものを押しつぶされると耐えきれずに射精する。
身体が知っている。身体が分かっている。分かっていないのは俺自身。なんたる悪夢。こんなもの、早く覚めてしまえ。
「──これは夢なんかじゃない」
ふと閣下が俺の思考を読み取ったように残酷な真実を突きつけてくる。ぐるりと円を描くようにナカを抉った指は引き抜かれ、ぽっかりと空いた空洞が果てしなく切ない。疼く。早く、早く楔を埋めてほしい……。
「……これは現実。私と茨はひとつになる、愛し合っているんだよ」
「は♡ は……♡♡ あいし、あって……?」
「……うん。私は茨のことが好き。茨も私のことが好き。……それなのに茨は自分が愛されることが間違っていると思い込んでいるから、愛を捨てようとした。だから私がその愛を拾い集めて時間をかけて君に返した。……その方法が『催眠洗脳』という、人として逸脱した方法であったとしても。私は君を愛する。……だから、茨も私と一緒に幸せになろう?」
確かに俺は閣下のことを好きだった。でも、それは違うって気がついたから早々にその気持ちを身体の外に排除した。どうやら閣下はその感情を拾って大事に持っていて、少しずつ俺に返してくれたようだ。
「おれも、しあわせに……?」
「……そうだよ。茨も幸せになるの。私と一緒に、永遠に」
ぎらつく太陽がゆらめく海を覗き込んでいる。
太陽に見つめられると先ほどまで抱いていたはずの嫌悪感は溶かされて消えていく。脳を揺さぶるテノール声が自分の思考をまるっきり変えていく。泣きたくなるほど優しい手のぬくもりが全ての判断を鈍らせた。
「…………あは、あははっ。いいんだ、おれも、しあわせになって」
閣下が言うならば、きっとこの俺でも幸せになれる。二人ならきっと、どこにいたってそこが楽園だ。
「いいですよ、なりましょ……しあわせに」
「…………うん、うん。幸せになろうね、茨」
この世の幸福を表現するように幸せそうな顔をする閣下の顔が近づいてきて、触れるだけの口づけを交わす。その後両手で強く腰を持たれ、待ち侘びていた暴力的な質量が切なくさざめいていた空洞を埋めた。
「──ッ♡♡ あ”、あ”あ”あ”あ”あ”あ” ♡♡♡♡き、たぁ♡♡♡♡」
「……っは、もっていかれそう……♡」
ちょっとだけ苦しそうに顔を歪める閣下はそれでも美しくて、きゅぅん♡ と勝手にナカでイった。俺を気遣う素振りのない獣のような揺さぶりに達したばかりの身体には強烈な快感が駆け巡り、ひっきりなしに喘ぎ声がこぼれる。
浮いた脚は知らず知らずのうちに閣下の腰に絡めていて、それに気がついた閣下が堪らないと言いたげに笑った。
「ひ、ぁ♡♡ ん、ぅ♡♡ あ、か、かぁ……♡♡♡♡ イく♡♡ イっちゃ……♡♡」
「……いいよ、いっしょに、イこうね……っ」
「あ♡♡ ん” ♡♡♡♡ ん”ん” ────♡♡♡♡」
駆けて、昇って、いっしょに飛び降りて。俺が達したその衝動を追いかけるように閣下も俺のナカに欲望を撒き散らす。温かいものが腹を満たす感覚をしっかりと感じ取りながら、ゆっくりと意識を闇に沈めた。
「────絶対に離さないからね、可愛い私の茨」
恍惚な閣下の呟きを聞かなかったことは、幸いなのだろうか。